『社長、辞めるか?』の一言で気付いた、真のビジョン経営
~魂(理念)を受継ぎ、自社の存在価値を最大限に引き出す~
― 富士支部総会にて小湊宏之氏(㈱アルファメディア 代表取締役社長・神奈川同友会)講演 ―
4月16日(木)富士ロゼシアターにて、第30回 富士支部総会が開催されました。第一部の総会に続いて開催された記念講演では、小湊宏之氏(㈱アルファメディア 代表取締役社長・神奈川同友会)にご講演頂きました。
ひょんなことから、ITに関する知識や経験のないままに、父の経営する㈱アルファメディアに入社。その後、父の体調不良をきっかけに33歳で事業承継。しかしその翌年、大きな赤字を出してしまいます。サブプライムローン問題等に危機感を抱き、自らトップ営業をしていたにも拘わらずそのような結果となってしまい、小湊氏は苦悩します。その姿を見た会長である父は、小湊氏に「社長、辞める?」と投げかけました。「会長が社長に復帰することで会社の信用を取り戻し、この危機を乗り越える算段かな」と想像した小湊氏は「辞めるよ」と言ってしまうのですが、この言葉に父は「その程度の覚悟で社長をやっているのか」「何をやりたいのかが感じられない。目先の仕事を追っているだけではないか」「会社のビジョンを丸暗記しているだけで、全然自分のビジョンにしていない」と激怒。これを機に、自社の沿革を紐解き、歴史をじっくりと振り返ります。そこから感じられる自社の理念の重みに、小湊氏は「事業承継とは、先代が社員と共に築いてきた理念、会社の“魂”を受継ぐことだ」と気づくのです。
その後、「人に優しいマルチメディアをあなたと共に創造する。」という経営理念を核とし、自社が取り組むべきは福祉・教育の分野だとフィールドを定め、出席管理システムや視覚障碍者向け歩行支援システムなどを開発していきます。「元々ある資源を活用し、理念に沿って、新たな展開をする」と、小湊氏は自社の事業展開の在り方について説明されました。
ここまでは、回復から上昇気流に乗った、順風満帆かのようなストーリーですが、小湊氏は現在の自社の状況について「いわゆる『アベノミクス』以降、仕事量は増えたが単価は上がらず、また人手不足から来る様々な経営課題に直面し、芳しくない」と話します。そして、人材採用は今後ますます難しくなると予想される中、小湊氏は「採用難のなかでもきちんと結果を出せる仕組みづくりをしていかねばならない」と語ります。障がい者雇用という切り口からも、彼らの適性・特性をも生かした、障がいの有無によらず結果が出せる体制づくりを述べられました。
企業の理念とは、経営者が次の経営者に渡し、繋ぎ続けていくタスキのようなものだと思います。それを、今回の小湊氏の講演で再確認できたように思いました。また、理念を核に自社の経営資源を活用し展開していく話には、やはり「想い」が最も大切だと感じました。そして、現在小湊氏が直面している課題について、氏は長期的視座から持続可能な解決策を見出そうとされています。理念経営、課題を大局的に捉え取り組む力、そして「人を生かす」仕組みづくりへの挑戦という、様々な学びに富んだ小湊氏の講演でした。
2005年から2007年にかけて世間を騒がせた、耐震強度偽装事件。静岡でも駅前の新築ビルがその対象となりました。今回の落合隆信氏(㈱オチアイ・静岡支部)の報告は、忘れかけていたあの事件の裏側でどのような事があったのかを知ることができる、とても興味深い内容でした。
10階建てのビルを壊してどうするのか、跡地活用の提案と資金面の問題など、地権者の立場に立ち、現在の形になるまで実施に携わった落合氏の情熱とこだわりを聞く事が出来てとても良かったと思っています。落合氏の話の中で私が印象に残っているのは、2階建てにこだわり徹底的に固定費を抑えて採算性の良い建物にしたという事です。2階建てならばエレベーターが不要で、最低限の費用で再建でき、テナント料も低く抑えられるため入居者も見込みやすいと言っていました。
そこまで地権者の立場になって考え実行した落合氏は、「不動産業においては人との信頼関係が大事」と言います。この「人との信頼関係が大事」とは、どんな企業にでも言える「原点」なのだろうと私は再確認出来ました。
太田 誠氏(㈲M.C.S.KURITA・静岡支部)
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私は経営指針を創る会に、右も左も分からないまま「小難しい書類を語りながら作るんだろう…」というイメージの中で参加しました。
私には、指針に限らず理念も軽んじていたところがありました。「企業は利益を追求する組織、売上げや利益を伸ばすのは戦略とその実行の問題であり、理念や指針や社是などが売上を伸ばすわけではない」などと考えていたものですから、理念や指針を集まって作ることは、単なる言葉遊びに近いものとさえ思っていました。その考えは卒業後もしばらくは変わることはありませんでした。
ところが少し前のこと、そんな私に事業の継続を本気で考えさせる事件が起こりました。何のために何を続けるのか?そんな自問自答がしばらく続いた時期がありました。
つまるところ、会社や事業のこれからのことを考えれば考えるほど、行き着く先は自分の「信念」です。この主語を会社に置き換えれば、理念となると思います。理念とは会社が存在する目的であり証だからです。
理念の真価が問われるのは、会社がピンチのときです。とことん追い込まれた時です。そんなときふらつくことなく、経営者の、会社の支えとなるのは理念だと思います。のんべんだらりとやってきた私には、それが分からなかっただけでした。
経営は遊びではなく、その経営の指針や理念も、言葉遊びやただ唱和するだけのものなどではありません。如何なる時も支えであり、ベクトルであることが理念や指針なんだと確信を覚えたのは、ごく最近のことです。
創る会は経営の本質に触れる貴重な機会です。経営者の苦しみや喜びは、その目線で闘っている人たちとでなければ、語り合って理解し学ぶことは出来ません。経営指針を創る会はそれが出来るところです。誰しも会社に入る時や経営者になる時、右顧左眄して入っていくのではないでしょうか。最初は私のように形だけでも良いから、とにかく参加し飛び込んでみればいいと思います。本質の理解や気持ちは後で付いてきます。
経営指針を作る会 9期卒業生
伊藤 崇洋氏(㈱オブジィ・榛原支部)
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先月に引き続き、恒例企画「新入会員さん出番ですよ!パート②」を開催し、偶然にも報告者の2名は『人』をテーマに発表しました。まず1人目の小林芳廣氏(㈲西ふじ)は、現場監督や、大工、建築板金工事などの経験を経て独立。独立に至るまでの経緯を「人生経験に無駄なし」と振り返りました。現在では、人との繋がりを大事にし、建物完成時の喜びは顧客在ってこそ、と地域の中で生き抜いていく覚悟と責任を感じていました。また顧客との繋がりを大事にしている為に、「クレームと信用は紙一重」。不具合は絶対に起こることだが、その時の対応次第では信用に変わると締めました。2人目の渡邉美穂氏(㈱旭紙工所)は、金融業を経て入社。初日から従業員の為にしっかりと働かなければと決意を固めました。入社後は早々に会社の弱点を独自調査し、設備投資でクリアできるハード面の対策をしました。それを扱うソフト面では、人材ではなく人財を作る為に、社内で筆記テストやマネージメントスキルプログラム、コストダウンミーティングの企画など、様々な取り組みをして時代に対応したメーカー作りに奔走していました。
田邉 元裕氏(㈲カボスメディアワークス・富士宮支部)
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㈱マルヨは、産業給食や学校給食などを取り扱う食品会社です。今回の例会は、専務取締役 伊丹克明氏の発表でした。創業当時の写真などを見ながら現在に至るまでの歴史を振り返った後、平成22年に建てられた新工場については、取り扱う食品の品質・衛生管理などに重点をおいているという会社の方針が、動画を交えて説明されました。
新工場を建てるなど順調に業績をあげてきた同社ですが、給食市場は今後伸びることはない、と伊丹氏は予想します。その為、「厨房受託業務」「高齢者向き宅配業務」「セントラルキッチン」の3つの柱を新たに展開して業績を伸ばして行きたい、と語られました。発表後のバズセッションでは、グループ会社の食事処「松韻」について、現在の営業形態は焼き鳥1本から懐石料理までという、お客様の幅がとても広い形態となっていますが、これから業績を伸ばしていくためには、どのような形のお店にして行けば良いかがテーマとしてあげられました。出席者が3グループに分かれ、異業種メンバーならではの目線から数多くの意見が出され、大変活発な例会となりました。
石居 達己氏(㈲永興塗装・三島支部)
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経営対策部会設営による、今年1年間かけて部会で作成した経営指針の発表会でした。
冒頭では昨年経営指針発表を行った勝俣智史氏(㈱フィットコーポレーション)より、1年間の計画進捗状況の報告がなされ、経営指針作成から1年間経った現在までに指針を実行するに当たり苦労した点などが語られました。
今年の報告者である勝又薫氏が代表取締役を務める㈲勝又造花店は、市内を商圏とする中堅の葬祭業者です。冒頭で同友会入会から経営理念作成までの思いを語って頂いたあとは、SWOT分析を元にした自社分析、経営理念を元に作成した新しい葬祭スタイルの提案、そして10年後、20年後のマーケットを見据えた事業計画が語られました。SWOT分析・クロス分析から導き出した重点対策に対して、ワークシート化された様々な切り口から戦略を立て、成功ストーリを組み立てていく手法は、聞いている私たちにも判りやすく為になるものでした。
今回の勝又氏の報告では、「戦略を立てる」というロジックの部分と、勝又氏のお客様や仕事に対する「熱い理念」であるロマンチックの部分を上手く融合させ、20年後のビジョンを作り上げる手法を学ぶことが出来ました。
大川 隆久氏(フヱタ工業㈲・御殿場支部)
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戸塚秀昭氏(㈲まるととづか・榛原支部)が「芋で日本一へ」と題し、我が経営を語る報告を
しました。
17年前「人の健康に寄与したい」との思いから地元の特産品である天日干しの干しイモで起業し、毎年売り上げを伸ばしてきました。今期は、息子への事業承継にあたって仕組みづくりの必要性を強く感じ、日々努力しています。戸塚氏の人間力で成長してきた会社をさらに発展させるには、どんな取り組みが必要なのか?社長の頭の中にある経営指針を的確に社員に示し共有化するには、どんな仕組みづくりをすればよいのか?そんな戸塚氏の悩みを受け、バズセッションのテーマを「自社の仕組みづくり、どうされていますか?」として議論しました。楽しく働ける、報連相ができるなど、人を育てる仕組みづくりなどについて活発な意見交換ができました。営業が忙しいと逃げずに社員と向き合い、話し合いの場や活発な意見交換の場を今以上につくる事が大事だと気付かされました。また、経営指針書の作成と社内発表がと
ても大切であると再確認できました。
今回は、戸塚氏の息子さんも同席され、創業者と後継者の事業に懸ける想いの差を埋める手助けになったようです。
田中 美次氏(田中肥料㈱・榛原支部)
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オリジナリティへのこだわり
不動産業というと土地や賃貸物件、売買物件の仲介をするために、物件情報がHPや会社内に所狭しと掲示されているものです。しかし㈱SUMICAは、喫茶店のような外観で、社内に入っても応接テーブルには何もなく、HPの物件情報も写真スタジオの紹介と見紛うような風景写真や建物の外観が数多く掲載されています。
これこそ丹沢遼氏の狙いです。現在は、ちょっと調べればいくらでも手に入る不動産情報そのものの価値はどんどん下落しています。だからこそ新規参入の㈱SUMICAは、既存の不動産業とは違うところに価値を見出し、別の視点から顧客にアプローチをしています。それは、ニーズこそ決して多くはないが他の企業が手を出しにくい中古物件を中心に、独自のコンサルティング技術でリノベーションをかけることで、
その価値を買ってくれるお客様を発掘し、そこに新たな市場を見出しています。
同友会とのかかわり
入会して2年弱と、活動そのものは多くはないですが、同じ経営者という立場の方達と、まじめに経営について語り合える場ができたことを非常に喜んでいました。これからも多くの方々と触れ合うことで、さらなる成長を見せてくれるでしょう。
これからの㈱SUMICA
ひとつはハウスメーカー部門の拡大化、もうひとつは新規事業立ち上げを支援するコンサルティングを事業化したいと考えています。特に後者では、事業を始めるにあたって絶対に必要なのが不動産であり、そのスタート時点でのコンセプトを事業主と一緒に明確化ることで、他社とも連携して新規事業を応援できるようになりたいとのことです。
「不動産には経済価値と感覚的な価値の2種類がある」と丹沢氏は言います。それは資産としての財産価値と、満足度という内面的な価値のことです。丹沢氏がこれからどんな価値を提供するのか、これからが楽しみです。
取材・記事 望月 光太郎氏(㈲望月・富士支部)
冒頭、山田幹也氏(㈱立花ガーデン)が、経営指針を創る会卒業の報告をしました。次期経営者の立場である山田氏は、創る会に参加し意見を頂く事により自分を見直し、将来を見据えて仕事と向き合う成長を得られた様です。
その後、松葉支部長から来年度の方針と計画を発表。支部運営は、新副支部長・新チームリーダーのもと、今年度同様会員を4チームに分けて再編成をします。
また、来年度は、支部創立30周年を迎えます。戸塚氏を実行委員長とし、会員全員が役割分担し周年事業を開催する計画です。チームと周年事業運営担当は、リンクさせての人員配置としました。周年事業に関して、戸塚氏より説明の後、来年度のチーム毎に分かれ方向性と分担を確認し意見を出し合いました。
志太支部は、節目となる30周年を機に会員の結びつきを強固にするとともに、会の良さを会外にも広く知ってもらい、地域活性化に貢献できる活動を進める意気込みで、来年度に向かいます。
安江 千代子氏(㈱ホワイトエンジェル・志太支部)
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2月28日(土)にウインクあいち 大ホールにて「あいち青年同友会合同例会」が開催されました。「原点から未来へ」と題し、全8分科会が開かれたこの合同例会で、静岡から簑 威頼氏(㈲朝霧牧場・富士宮支部)が第8分科会の報告者として登壇しました。
「経営者としての地域への覚悟 ~世界を見据えた地域での生き方~」と題した簑氏の報告では、従業員や地域からの反発のなか、どんなに辛くとも苦しくとも決して逃げず「人を変えることは難しいが自分自身が変わることは可能だ」と、経営者としての強い覚悟を持ち、すべての主体である自分自身を変化させ、取り巻く環境の変化に対応していった体験が述べられました。また、自らが変わり、従業員や地域と真摯に向き合うことによって次第に会社が変わり、地域に必要とされる企業になっていった事例が報告されました。
座長を務めた宇佐美健介氏(㈲エージェントうさみ・富士宮支部)は座長まとめの中で「たゆたえども沈まず」「どんなに悪天候でも、舵が壊れても、帆が裂けても船は沈まない。沈ませない。我々経営者は、明日ではなく、今死んでも後悔しない程の強い思いをもち、己と向き合って生きていかなければならない。そうやって簑氏は、自分の道を歩いている」と述べました。また「地域の衰退・消失という問題を直視し、中小企業が地域を支え、共に生きていかねばならない。中小企業振興基本条例を通じ、崩壊する地域を守ろう」と中小企業の地域における役割を述べました。
簑氏の報告、そして宇佐美氏の座長まとめに籠められたメッセージは、全国から集った青年経営者の心に響き、「経営者の覚悟」「国民と地域と共に歩む中小企業の在り方」について気付くきっかけになった事と思います。
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