宇佐美健介氏(㈲エージェントうさみ)の報告でした。同氏は2005年4月に同友会に入会し、同友会3つの目的「自主・民主・連帯」の精神を学び、自分の経営とは何か?と自問した際、経営の根本的な考え方がなかったことに気づかされます。その後、富士宮支部の経営指針研究会に3年間かけて参加し、自社の経営指針を創りました。自身は勿論、同友会の報告の際には社員も同席し浸透するようにしたところ、社員の行動に良い意味で変化が生じていきました。また、2017年11月の新社屋完成時に社員だけでなく、取引先も招き経営指針発表会を開催し、真摯に自らの人生を自社に向き合うことの大切さを訴えました。その結果、取引先からの信頼も一層深まり、協力してくれるようになりました。

バズセッションは「自社の持つ役割を理解していますか?」をテーマに、参加者それぞれが、自社が選ばれる理由や強みを振り返り、改めて地域に必要とされる企業づくりを考えるきっかけとなりました。本例会の最後には「至誠にして動かざるもの、いまだこれあらざるなり」という言葉で締め、同友会の仲間からいただいた言葉も大切にしているという報告もありました。

草ヶ谷 健太郎氏(草ヶ谷燃料㈱・富士宮支部)

静岡同友会副会長の知久正博氏(㈲知久太田会計事務所・榛原支部)を講師に迎え、経営理念や経営指針を創った経緯や現在の活用方法を、自社の歩みを交えながら話して頂きました。社員同士の意思疎通が上手くいかない時期に、知久氏自身は介入せずに社員全員で行動指針を創ることで、社内のすれ違いが解消していったと言います。現在では会社全体の意思統一を図る意味でも毎年経営指針を社員全員に配り、経営理念の意味についても説明しスローガンを掲げているそうです。また、社員だけで年間休日を決めたり、社報を企画から全て社員が考えたりと、自発性や主体性を引き出す仕組みづくりがありました。

バズセッションでは、「経営指針は必要なのか?」というテーマに対し、社員に会社の方向性を伝えたい思いで経営指針を創ったが、上手く活用できなかったという意見や息子に事業継承するために経営指針を創っておけばよかったなど、経営指針について改めて深く考える時間となりました。経営指針は経営者の経営に対する思いと、ビジョンや方向性を成文化したものですが、まずは社員のための経営指針だという事をしっかりと考え、浸透・発信をしていくことが大事だと思いました。

楠林 壯太氏(塗り物アート かがや・浜松支部)


柔らかいオーダーもしっかりとしたカタチに。硬い金属で柔軟につくります!

天母鋼業㈱

代表取締役 伊藤 博之氏(富士支部)

事業内容:産業機器付帯部品・架台・手摺・階段等 運送流通容器・産廃用容器各種 製缶・板金

設立:1988年3月

社員数:正規3名、パート1名

入会:2006年10月

所在地:富士宮市山宮3082-1


会社の強みを生かし受注生産に特化

  天母鋼業㈱は、ガードレールのパーツの溶接や携帯電話の部品用パレット、エレクターの製造などを手掛けていました。しかし、時代の変化や仕事の海外流出を経験し、どこでもできる仕事ではなく、自社の強みを生かした仕事に特化してきました。工業用エレベーターのフレームの製造などを経て、現在は駐輪場の部材、オーダーの産廃ボックスの製造など、受注生産がメインです。駐輪場の部材については、全国シェアの半数以上を占めているとのこと。
 代表取締役の伊藤博之氏は「顧客や現場の漠然とした依頼や希望に対し、具体的に図面を書き提案、実現できることが強み」と語ります。工場の職人が手掛ける高精度、高品質の製品も強みの1つです。また、溶接の熱によって出るひずみを、勘と経験を頼りに調整しながら製作するそうです。まさに職人技ですね!


社長の思いと同友会との出会い

 伊藤氏が後継者として会社に入った当時、経理を把握しているのは社長だけでした。こんな状況では会社が立ち行かないと悩んだときに、内山泉氏(㈲星王工業)に同友会を紹介され入会。「様々な会員の報告を聞くうちに、このまま諦めてはだめだと思った。諦めなければ何とかできると学んだ」と話してくれました。今後の対策としては、常に将来を見越してオーバー気味に仕事を受けながら営業をかけることと、自社の強みでもある設計から製作までを受け、高い精度と品質でオリジナルの商品を製作することに取り組みます。


安定して成長し、社員がいきいきと働ける会社を目指す

 受注生産がメインの為、安定して仕事があるわけではありません。繁忙期には自分自身が現場に入ることにより、営業面がおろそかになることもありました。「今年度からは自分自身は極力現場に入らず、次の仕事を取るための営業に努めていく。目の前の仕事だけではなく、未来を見据えて行動し会社に安定的な利益をもたらすのが、経営者としての自分の役目」とのこと。また、現在抱えている課題である人手不足について伊藤氏は「会社の発展のためにも、新たな人材を採用したい。そのためには労務環境についても考えていく必要がある」と話してくれました。個人としては、奥さんと1年に1回旅行に行きたいそうです。最後は夫婦仲の良いところを伺って会社訪問を終わりました。

記事:渡邉 正仁氏(㈲丸之工務店・富士支部)


創業96年、老舗建材屋の挑戦!

㈱野村商店

代表取締役 野村 勝也氏(伊東支部)

事業内容:建設資材(左官材、屋根材、タイル石、ブロックレンガ、外装建材他)、土木資材、コンクリート二次製品、住宅設備資材、(配管材、機器)、セメント、生コンクリート、骨材

設立:1922年4月

社員数:104名

入会:2016年4月

所在地:伊東市荻578-216

野村 勝也氏(左)


社員と向き合い社長の想いを共有する

 今年で創業96年を迎える㈱野村商店。高度経済成長期やバブル経済期には、建築物の建設増大に伴いコンクリートの需要が増え、順調に売上を伸ばしていきました。2001年に本社を東京から伊東市に移転しますが、リーマンショックなどの影響もあり、現在は売上が最盛期の約50 %にまで減少しています。
 代表取締役の野村勝也氏は3年前に事業承継しました。それまでは拡大路線で、営業所や工場を県内に十数か所展開してきましたが、いくつかの営業所の閉鎖を決意。但し、社員の雇用は徹底して守り、1つの営業所で広範囲に仕事をこなしたり、同業者と営業所をシェアしたりすることで、コスト削減に取り組んでいます。社内の組織を変えていく中で、社員からは様々な意見が出ます。そこで野村氏は、この取り組みが社員・会社のそれぞれにどのようなメリットがあるのかを伝え、理解してもらうようにしています。


10年後、20年後に向け新卒採用に取り組む

 現在は新たな試みとして、新卒者の採用にも積極的に取り組んでいます。社長自らが企業ガイダンスに参加し、自社だけでなく中小企業や業界の魅力を発信しています。若い世代の社員が入社することで、中堅やベテラン社員の変化が目に見えてわかるようになったとのこと。野村氏は「決して余裕がある訳ではないが、自社の10年後、20年後を見据えて積極的に取り組んでいる」と言います。また、社員が育つ場づくりの取り組みとして、社内での勉強会も積極的に開催しています。その勉強会では、社長が社員に教えるのではなく、社長と社員が共に学ぶ環境づくりをしています。

社員さんが考案したありがとうを伝える掲示板


理念の浸透をめざす!

  これから取り組んでいきたいことは「会社として利益を追求するのはもちろんだが、まずは経営理念を社内に浸透させていきたい」とのこと。各営業所で毎朝理念の唱和を徹底しています。 建設業界でも人手不足が大きな問題となっている中で、技能者ひとり一人の就業実績や資格を登録し、技能の公正な評価、工事の品質向上や効率化を目的とした「建設キャリアアップシステム」の導入など、現場における様々な問題を解決し、安心して働ける仕組みづくりに取り組んでいます。「人手不足や定着の問題は深刻で、今は良くても将来的に厳しくなることは予想できる。先日の県総会での加藤明彦氏(エイベックス㈱・愛知同友会)の記念講演を聞き改めて、見えている未来に向けて準備していくのが社長の仕事だと感じた」と野村氏は話してくれました。

   

記事:鈴木 将大氏(㈲東亜電気工業・伊東支部)

【逸品】灯の歴史に残る製品をつくる

会員企業名 ㈱東海製蝋 創立 1877年
会員名 阿久澤 太郎 業種 ローソク製造販売業
所属支部 富士宮支部 従業員数 正規:31名 パート:4名
会暦 2016年7月入会 事業内容 各種ローソク製造販売


創業140年の老舗

 富士宮市にて1877年(明治10年)に創業した140年の歴史ある老舗ローソク製造販売会社、㈱東海製蝋。阿久澤太郎氏は、その5代目社長です。全国に多数の顧客を持つ同社は、社是と経営理念を基に、時代の移り変わりに対応しながら歩んできました。「1400年以上前に伝来し、日本人のアイデンティティ形成の一翼を担ってきた『灯の文化』を未来永劫に継承していけるよう、商品開発をしている」と阿久澤氏は話してくれました。


本物を作り続ける

「日本の灯の歴史にのこるローソク創り」を生きがいの一つに据える阿久澤氏。「それを実現する過程で、一歩一歩高みを目指してのぼっていくことになりますし、開発した新製品が市場に定着すれば、この時代に生きていた証を築くことになるからです。量を追わず、質を捉えていきます。安定した品質に支えられた、安全な灯が醸し出す美しさや安らぎに価値を見出してくださる感性豊かなお客様に、本物のローソクを提供し続けていきます」と語ります。

阿久澤太郎氏


現代・次代のライフスタイルを考える

 ㈱東海製蝋は「企業理念の『灯の歴史に残る製品をつくる』が基本となり、お仏壇や神棚に手を合わせる人を増やすために、時代に即した安全な商品を開発し、製造し、拡販する、というのが当社の姿勢」と言います。老舗だからといって、同じ商品だけを売り続けるのではありません。例えば、今回の表紙にある『お盆の迎え火・送り火』という商品も、現代のライフスタイルに合わせ開発されました。従来のようにたくさんの木片等を使用する「迎え火・送り火」が難しい都市部の住宅やマンションにお住まいの方にも、容易に安全に「迎え火・送り火」を行う事ができるようになっています。形は変わっても、日本人にとって大切な習慣や文化を残すことができる、というコンセプトです。また『火種』という商品も、ローソクの芯糸にロウを沁み込ませたもので、約3分で燃え切り、後片付けが楽なようにしています。
 老舗企業と聞くと「守る」という先入観に捉われがちです。しかし阿久澤氏は「時代に合った商品、時代に先行した商品を次々と提供していきたい」と語ってくれました。その言葉にとても大きな意欲を感じましたし、㈱東海製蝋が多くのお客様に支持され続けている理由なのだな、と思いました。

取材・記事:望月 知洋氏(エムスタイル・富士宮支部)