富士宮・富士6月合同例会

「足もとに笑顔を届ける会社 〜奇跡を起こしたピンクの靴〜」

報告者:十河 孝男氏(徳武産業㈱ 代表取締役会長・香川同友会)
6月2日(木) 富士宮駅前交流センター「きらら」 参加88名

報告者 十河孝男氏(徳武産業㈱)

報告者は、十河孝男氏(徳武産業㈱代表取締役会長・香川同友会)。銀行員等を経て、義父である先代社長の急逝により、37歳で徳武産業の社長に就任。大手得意先の協力工場としてバレーシューズ等を製造。しかし、得意先の仕事が数年後に海外移管によりゼロになるなどの経営危機に直面します。

そんな時、友人の介護施設長より高齢者が転びにくいシューズの開発を依頼されました。2年間におよぶ研究開発の末、明るく軽く安定安価な高齢者用ケアシューズ「あゆみ」が誕生します。左右サイズ違い販売、片方のみでも半額で販売するなど、完全に常識を覆しています。経営判断に迷ったら損得ではなく善悪で判断、天に恥じることはしないという十河氏。社員全員で作成した膨大なボリュームと内容の経営計画書にも驚かされます。

製品の入った箱には社員の手書きのまごころ葉書が入っており、回答をいただいたアンケートも本当に大切に管理されています。まったく歩くことの出来ないお婆さんにピンクの靴「あゆみ」が語りかけます、「歩こうよ!」と。そして数カ月後、本当にそのお婆さんは歩くことが出来たのです。

このような奇跡を起こし続けている徳武産業㈱には全国から感謝の手紙が絶えません。そして、例会最後に紹介されたDVDによる礼状の内容に、当日の参加者は涙を抑えきれないのでした。

九川 治喜氏(丸山工業㈱・富士宮支部)

◆参加者感想◆

ケアシューズ業界のトップシェアを担う徳武産業㈱。講話の中で、高齢者は足腰が弱っているから、歩くときに足先が十分に上がらず平地でもつまずいてしまう、と聞いた瞬間に、昔、いたわりがなかった自分を責め、高齢者用ケアシューズが頭と心に入りました。

命がけの事業継承、下請け企業からの変遷。老人ホームを経営する友人からの相談を機に調べ始めて高齢者の悩みの深刻さに驚きます。約500人の高齢者の足を調べ2年後「あゆみ」シューズの開発に至り、高齢者の願いをかなえています。百科事典のような経営指針書をもとに、約60人の社員とは常に意見交換の場を設けている、チームごとに日々の早朝ミーティングで問題点、成果をあげて、落後するチームを減らしていく、「私の考えを理解し、会社に愛着を持ってくれる社員がいるからこそ、顧客に喜ばれる物を提供できると思う」という報告でした。

私はこの原稿を書きながら、うちは企業間取引だから、お客は企業だから違うと思った自分に、「何が違うだよ」と自問自答。顧客企業、社員、地域としっかり向き合っているのか、自分は「変わった」のか。ごまかしている自分を気が付かせていただいた講話でした。

渡辺 直俊氏(フジゲン㈱・富士支部)

中小企業にとって下請けからの脱却は並大抵の努力では出来ないと私は思っています。研究・開発する余裕や、それを継続する余裕と意志がないからです。徳武産業㈱は会社が非常に厳しい局面を迎える中、自社の培ってきた技術を応用し、「高齢者の困り事」をきっかけに徹底的に数値化し改善してきました。それも、お客様に寄り添い何度も何度も時間をかけて。普通の人なら諦めてしまっているだろう、と思えるくらいの発表者の熱い言葉が私の心に突き刺さり、私なりの努力では甘過ぎると気付かされました。

お客様をどのように満足させ、満足以上のものを得られるかは、商品自体もさることながら従業員次第で変わるということも、同時に教えて頂きました。まさしく“企業は人なり”を実践している会社、徳武産業㈱は人に感謝する表現を形にし、解りやすく伝える為の努力をし続けているのだと思いました。

大澤 秀明氏(㈲オオサワ商会・富士宮支部)

中小企業憲章・振興基本条例学習会
「中小企業振興基本条例で、地域、中小企業、そして中小企業振興への考え方が変わる
~条例・調査・振興会議の3つの定石で捉える産業活性~」

講師 植田浩史氏 (慶應義塾大学経済学部教授)
6月11日(土) 静岡市産学交流センター ペガサート6F 参加62名

植田浩史氏

6月11日(土)に5回目となる条例学習会を開催。県議会議員、静岡県はじめ、静岡市、沼津市の行政担当、中小企業団体中央会や藤枝市、牧之原市の商工関係団体、また大学や関係機関から12 名を含む65名が集いました。講師には植田浩史氏(慶應義塾大学経済学部教授)をお招きし、「中小企業振興基本条例で、地域、中小企業、そして中小企業振興への考え方が変わる~条例・調査・振興会議の3つの定石で捉える産業活性~」をテーマに講演頂きました。

まず中小企業振興基本条例とは、地域(自治体や関連機関)が中小企業の安定的な経営と事業発展のための支援を行う宣言であるだけでなく、中小企業自らも、環境変化に耐え、事業発展させるための自助努力と自己研鑚を行うことを宣言するものであると説明。そして21 世紀は、地域における中小企業振興が、地域経済、地域社会、地域生活の活性化に不可欠であると強調されました。また、大阪府八尾市、北海道帯広市、愛媛県東温市、松山市、東京都新宿区の条例制定後の活きた取組みを踏まえ、地域産業政策を創造する振興会議の在り方として、課題意識を高める場、生きた活動展開と議論ができる協働の場、支援や連携で成功事例を積み重ねる場の3点が重要と語りました。

参加者からも「条例は制定されても活きなければ意味はない。条例と共に、現状把握をする調査活動、そして振興会議。これら3 つを定石として捉え、中小企業・自治体・地域全体が中小企業振興に覚悟を決めることが重要」「条例は中小企業と行政や地域を結ぶ架け橋。条例を運用していくことが、地域づくり、企業づくり、人づくりに大切なこと。企業の経営指針と同じくPDCAサイクルで行うこと」などの意見が会内外の参加者から挙がりました。

学習会風景


<参加者感想>

 昨年3月に神奈川で開催された中小企業問題全国研究集会で、植田先生の分科会に参加して以来の先生の勉強会でした。一昨年より、地元藤枝市の商工会議所地域振興委員会にて中小企業振興基本条例の策定に向けたプロジェクトを立ち上げ、委員会メンバーとともに他地域の条例についての勉強会や東京墨田区の視察を実施しました。同時に市の推進する中小企業育成の環境整備の仕組みであるEG(エコノミックガーデニング)の推進と絡めながら、市の産業政策部門の担当者とも協議を重ね、少しずつ条例(案)の策定に向けた準備をしてきました。

 この学習会の直後の14日には、商工会議所総務委員会、及び会議所会員市議会議員への条例(案)説明の場が設けられ、条例策定を要望として市長あてに提出する道筋がはっきり見えてきました。今回の研修では、改めて理念条例の必要性、そして生きた条例にするためのポイントが確認でき、とても良い予習になりました。近隣の焼津や島田にも、同様の機運が出てきているようで、同友会支部活動を通じ、志太地域全体に連鎖していく事を目標に、あと一押し頑張っていきます。

松葉秀介氏(松葉倉庫㈱・志太支部)


お客様の安心・安全を第一に考える地域密着企業

㈲カーライフ静岡

代表取締役 大池 盛一郎 氏(志太支部)

事業内容 自動車整備業(新車・中古車販売、中古車買取、車検、点検、一般修理、自動車保険)

創立   1982年10月

社員数  正規5名

入会   2015年7月

所在地  焼津市石津536-1

大池 盛一郎氏(中央)、池原 智彦氏(右)、山田 幹也氏(左)


中古車販売・整備を主軸に地域密着企業に

焼津市にある㈲カーライフ静岡は、創立から34年続く、自動車の販売整備を行う企業です。
 地域密着企業として、来店いただくお客様に対して、信頼を第一に考えて営業しています。一般の人にはわかりにくい部分である、整備に対して強いこだわりを持つことで、安心して車に乗っていただき、お客様への信頼を得ていることが自社の強みであるとのことです。主なお客様の層としては、地域で暮らす高齢の車ユーザーです。高齢の方が好む色をそろえ展示し、丁寧な接客と安心の整備で信頼を得て、お客様がリピーターとなり、新しいお客様もご紹介いただけるようになったと語ります。


突然の入社と事業承継

先代の父が一人で始めた整備会社でしたが、平成5 年に現在の場所に移転しました。
それを機に氏は入社をしましたが、当時は大学を出たばかりで、自分の父の経営する会社に入社することは考えたことがなく、悩んだ末、23歳の時の入社でした。
先代は平成11年に急逝され、29歳の若さで事業承継する形で代表取締役に就任しました。


大量大型車販売から軽・コンパクト車の時代へ

事業を受け継いだ当時から、現在に至るまで、世間の自動車に対する考え方が大きく変わり、軽・コンパクト車が主流の時代になり、今後さらなる技術革新で、自動運転車の導入など、時代の変化は激しくなるでしょう。安心・安全な車販と整備でお客様と信頼関係を築きながら、地域の高齢者に、一年でも長く車に乗ってもらう工夫を進めていき、今後のビジョンを見据え、仕事に邁進していきたいと語りました。

 

取材・記事:山田 幹也氏(㈱立花ガーデン・志太支部)
池原 智彦氏(㈲池原商会・志太支部)


個性を発揮しながらも同じベクトルで進むオーケストラのような会社

丸山工業㈱

代表取締役 九川 治喜氏 氏(富士宮支部)

事業内容 金属プレス加工、金属パイプ加工(自動車部品、機械部品等)

設立   1960年4月

社員数  正規 18名 パート4名

入会   2009年2月

所在地  富士宮市山宮2201-10

URL  http://www.maruyama-kogyo.co.jp/


2003年、38歳で社長に就任

自動車部品の金属プレス加工、パイプ加工を主に手掛けている、丸山工業㈱。九川治喜氏が後継者として入社したのは1993年、28歳の時でした。パイプ加工を中心に生産現場、金型設計、品質管理の業務に携わり、忙しくも順調に日々を過ごします。そして入社から10年が過ぎた2003年、「社長は若いうちから」という先代のモットーもあり、38歳で社長に就任します。

九川 治喜氏


度重なる外部環境の激変のなか、同友会に入会

就任後間もなく原料価格の高騰に見舞われ、九川氏は値上げ要請や材料確保に奔走します。さらに43歳の時にはリーマンショックが発生。困難の連続の中で、経営者としての力不足を痛感したといいます。そんな中、出会ったのが同友会でした。同様の立場や悩みを持つ仲間と出会い、何のために経営するかを問う同友会の教えは、九川氏にとってとても新鮮で力強いものでした。理念作りをはじめ会活動に積極的に参加し、学びを深めていきました。


経営理念、ハーモニーで個性を同じベクトルに導く

音楽家としての顔も持つ九川氏は「音符から音楽が生まれるように図面からモノを作る」という社是を作りました。オーケストラ指揮者が団員のパートや個性を理解しハーモニーを奏でるように、会社も社員の個性を発揮しながらも調和する同じベクトルで進みたいという想いを込めています。ちなみに昨年、ドラマ「下町ロケット」で同社制作のパイプが使われたこともあり、社員の士気を高める追い風になりました。今後は蓄えた技術力を発揮し、加工業だけではないハーモニーが聴こえてくるような自社製品の開発にも取り組んでいきたいと語ってくれました。

(左から)稲原 研氏、阿久澤 太郎氏、朝日 康典氏、九川 治喜氏、田邉 元裕氏、河村 徳之氏

 

取材・記事:田邉 元裕氏(㈲カボスメディアワークス・富士宮支部)
河村 徳之氏(かわむら呉服店・富士宮支部)