中小企業振興基本条例で地域をつくる ~墨田区の産業観光施策から学ぶ憲章学習会~

カテゴリー:中小企業憲章 / 新着情報

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6/7()県同友会事務局にて中小企業憲章・中小企業振興基本条例学習会を開催しました。県内会員をはじめ、静岡大学や藤枝商工会議所等、約40名が参加しました。「中小企業振興条例で地域をつくる~墨田区の産業観光施策~」をテーマに、東京都墨田区企画経営室長の高野祐次氏に登壇いただきました。

東京都の東側に位置する墨田区は、人口約25万人の区です。街の歴史は江戸時代に遡ります。江戸城近くで庶民の街として栄えた墨田は、明治に入り近代工業として発展していきました。隅田川花火や両国の大相撲、また江戸前寿司等、食文化や伝統工芸など江戸文化が今でも色濃く残っています。墨田区の特徴は、中小零細規模の製造業が集積し、日用消費財を中心とした試作、開発、高度技術、ニッチな商品分野などに特化していることです。

昭和に入り、浅草・日本橋など問屋・流通機能を支える生産拠点として墨田区の日曜雑貨工業が発展するも、高度経済成長期の昭和40年代、徐々に生産拠点が地方へ移転していきました。昭和45年の9700工場をピークに減少、街は活力を失い始めていきます。1979年、街の危機的状況を鑑み、区の最重要項目の姿勢を打ち出したのが「墨田区中小企業振興基本条例」の制定でした。街の活力低下を実感した当時の区長が発案し、係長級職員190名を動員して行った製造業系約9000の全事業所調査を経て、条例が制定されました。

条例が出来ただけでは街は変わりません。条例に魂を吹き込むため、昭和60年代から条例に基づく、区の産業ビジョンを策定、以降様々な施策が展開されました。小さいながらも頭脳を備えたものづくりの現場が織りなす密度の高い生産ネットワークと、それを支える地域の文化の実現=「工房ネットワーク都市」を目指すという目標を掲げました。

しかし産業構造が変化し、地域を支えていた事業所の後継者難と転廃業が増え、昭和45年に9700あった事業所は平成20年には3400所、現在では3000所を割っています。約40年で3分の1に減少、ものづくりの衰退が深刻を増していきました。

墨田に活力を取り戻すべく、産業と観光の相乗効果を視野に東京スカイツリーの誘致に名乗りを上げました。江戸伝統文化を継承する地として誘致に実現し、観光を起爆剤に初年度5000万人を超える集客を生み、大きな地域経済効果が期待されています。

墨田の歴史文化と東京スカイツリーを活かした観光施策だけでなく、ものづくり産業の再生を目標に、その継承とブランディングにも注力しました。区内外のデザイナーやクリエイター等のものづくりニーズを持つ人材と、実際に製造する人材が集まって製品の企画開発創出拠点「すみだ版ファブラボ」を展開しています。また、地域ブランド価値を高めるための認証商品「すみだモダン」に挑戦する企業も増えています。

街の活力を維持、発展させていくために大切なこと、その一つに人材育成を高野氏は掲げます。墨田区は次代を担う人材育成と施策が幾重にも重なった重層展開を実現し続けるため、「フロンティアすみだ塾」を10年前に開設。以降、10年間で100名を超す後継者・若手経営者が育ち、墨田産業界のコアになる人材が増えています。新たなコトを興していくことで人が繋がり地域が変わる。今後も墨田区では「新しいコトを興す」ことを戦略として、産業と観光を相乗的に進め、地域おこしに繋げていきます。

最後に高野氏は、地域を変えてきた3つのDoを紹介しました。①制度→②ムード→③風土と語り、その風土を確立していった原点は中小企業振興基本条例であると説明しました。